本研究の目的は、虚血や高血圧など様々な外的負荷によりもたらされる心血管系組織の病的な構造改変(リモデリング)に対するプリン作動性受容体P2Y6Rの役割を明らかにすることである。申請者はアンジオテンシンIIによる昇圧作用がP2Y6Rノックアウトマウスで顕著に抑制されることを見出した。さらに血管の形態学的解析を行ったところ、アンジオテンシンII投与により引き起こされる血管中膜の肥大、血管線維化などのリモデリングがP2Y6Rノックアウトマウスでは抑制されており、P2Y6RはアンジオテンシンII応答性を正に制御していることが明らかとなった。そのメカニズムとして申請者はアンジオテンシンIIに対する受容体であるAT1RがP2Y6Rとヘテロ二量体を形成していることを明らかにした。通常、アンジオテンシンIIにより活性化されたAT1Rはβアレスチンを介してインターナリゼーションされるのに対して(脱感作作用)、P2Y6Rとヘテロ二量体を形成したAT1Rではインターナリゼーションが抑制されており下流シグナルの応答性が増強されていた。 AT1R-P2Y6Rヘテロ二量体形成はP2Y6RのアンタゴニストであるMRS2578で抑制されたことから、両者の相互作用、およびアンジオテンシンII応答性はP2Y6Rの活性状態により動的に制御されることが明らかとなった。この結果と一致するようにアンジオテンシンII投与マウスでの血圧上昇作用はMRS2578の同時投与により抑制された。 血管平滑筋細胞におけるP2Y6Rの発現は発生に伴い上昇することを明らかにした。胎児と成体マウスでのアンジオテンシンIIシグナルの応答性の違いにP2Y6Rの発現量の違いが関わっていることが示唆された。
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