研究課題/領域番号 |
26893331
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研究機関 | 独立行政法人放射線医学総合研究所 |
研究代表者 |
滝澤 和也 独立行政法人放射線医学総合研究所, 緊急被ばく医療研究センター, 研究員 (20739388)
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研究期間 (年度) |
2014-08-29 – 2016-03-31
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キーワード | 間葉系幹細胞 / 造血幹細胞 / 放射線障害 / ヒト化マウス / エキソソーム |
研究実績の概要 |
本研究では、高線量の放射線によるヒト造血幹細胞への障害をヒト間葉系幹細胞がもたらす防護効果の視点から評価するための新しいヒト化マウスモデルを構築することを目的としている。そこでまず、ヒト造血幹細胞とヒト間葉系幹細胞を同時に移植することにより、超免疫不全マウス(NOG)の骨髄内にヒトの造血環境を再構築することを目指した。 平成26年度は、できる限りドナーの骨髄内での造血環境に近づけることを理想として、単一ドナー由来の骨髄単核細胞から造血幹細胞と間葉系幹細胞の両方を調整する方法を試みた。細胞表面抗体と磁気ビーズにより標識した細胞を磁気カラムに通して濃縮することで、高純度の造血幹細胞(CD34陽性)と間葉系幹細胞(CD271陽性)を採取した。間葉系幹細胞の分離にはプラスチックシャーレ上で接着細胞を選択的に培養する方法もあるが、CD271陽性の間葉系幹細胞はより増殖能力や成長因子の分泌能力が高いことが報告されることから、マウス骨髄での生着率や放射線障害に対する防護効果も高いものと期待される。分離後、間葉系幹細胞は培養により増幅し、移植用の細胞として準備中である。 また一方で、間葉系幹細胞の放射線障害に対する防護効果をin vitroで検討するための系を準備した。はじめに放射線照射したヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)を用いて、放射線による細胞死を抑制する効果を指標とした評価法を検討した。Transwellを用いた非接触型共培養法、および間葉系幹細胞の培養液を添加する培養法により評価を試みたところ、予想していたよりも顕著な効果は認められなかった。しかしながら、骨髄間葉系幹細胞の不死化細胞株(UE6E7T11)においては共培養および培養液添加のいずれにおいても比較的顕著な細胞死抑制効果が認められたことから、以後この細胞を陽性対照として置き、移植に用いる間葉系細胞の評価を行うこととした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
計画では平成26年度中にNOG マウス骨髄内へのヒト造血幹細胞と間葉系幹細胞の共移植を開始する予定であったが、MSCの調整に時間を費やしたことと、施設内へのNOGマウスの導入が遅れてしまったことから、計画を繰り越して平成27年度から移植実験を行うことにしたため。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度では、まずヒト造血幹細胞と間葉系幹細胞を合わせてNOG マウスの下肢骨髄内に移植することにより、マウス骨髄内にヒト骨髄内の造血環境を構築する。移植後、マウス骨髄内にヒト造血幹細胞と間葉系幹細胞の両方が生着し、機能的な生理活性を有していることを末梢血リンパ球細胞のキメリズム解析と骨髄の免疫組織化学を用いて確認する。 次に、ヒト造血細胞の生着が成功したヒト化マウスを用いて放射線障害評価系モデルを構築する。具体的には、ヒト化マウスに0.5 ~ 4.0 Gy の放射線を照射し、照射後2 週間毎に末梢血中のヒト白血球数を測定し、15 週目までの生存率とヒト血液細胞のキメリズムを追跡して造血障害からの回復程度を評価する。同時に、放射線によるヒト造血幹細胞へのダメージを解析するため、骨髄細胞内の造血幹細胞をソーティングにより分取し、コロニーアッセイによる分化能の評価と、発現遺伝子解析を行う。また、骨髄以外の組織 (胸腺、リンパ節、脾臓、皮膚、小腸上皮) も含めて、病理組織解析により放射線障害の程度を評価する。 最後に、間葉系幹細胞の培養上清から超遠心分離機により精製したエキソソームをヒト化マウスの尾静脈より投与し、放射線照射後 12 週目の骨髄からヒトの造血幹細胞を回収し、幹細胞能の消耗などをコロニーアッセイとフローサイトメーター解析を用いて評価する。また、DNA 損傷の程度や遺伝子発現の変化を解析し、エキソソーム投与によるヒト造血幹細胞に対する放射線障害の防護効果を検証する。
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