【目的】現在多くの実験動物飼育施設のモニタリング検査に用いられているELISAキットは、高価で偽陽性や偽陰性の判定も出ることから、より高精度で簡便にしかも低コストな遺伝子レベルでの検査方法の開発を目的とした。マウス肝炎ウィルス(MHV)は、伝染力が強く動物を致死させる恐れがありELISA検査で頻繁に偽陽性反応が出ることから、今回MHVを対象に検査方法の開発を試みた。【方法】MHVはRNAウィルスであるため、RNAを抽出する検体として血清だけでなく、小動物への負担がない糞便からRNAを抽出して検査できるかどうかを検討した。検査装置としてリアルタイムPCR装置を用い、試薬が低コストなことと融解曲線の解析で特異性が正確に判定できるSYBR Green系の試薬を検討し、検出感度と精度を評価して検査方法としての有効性を検討した。【結果と考察】ELISA検査で偽陽性反応を示したマウスの血清4サンプルと糞便4サンプルを含む計21サンプルについてRT-PCRをおこない陽性コントロールプライマーのマウスβactinでcDNAをチェックし、ほとんどの検体について問題なくcDNAが合成され、血清はもちろん糞便からも検査できることを確認した。MHVの陽性サンプルが得られなかったため、代替としヒトC型肝炎ウィルスの検出系で本検査システムの検討をおこなった結果、最小5コピーの検出感度で特異的な反応が確認できた。またリアルタイムPCR後の産物の電気泳動で2コピー以下の検体で見られた期待値と同じサイズの増幅バンドは融解曲線の解析から非特異的な増幅産物であることがわかり、偽陽性反応かどうか客観的に判定できることが示唆された。MHVには多数の株が存在しており全株に共通するプライマーをデザインするのが難しいことがわかったため、2000bpまで定量的に増幅できるというSYBR Green系の反応試薬も検証し有効性を確かめた。以上、一般的な増幅サイズの制限枠を越えて自由度の高いプライマーを設計して汎用性の高い検査方法を開発する基盤を作ることが出来た。
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