【研究目的】 申請者は、神経幹細胞および各組織のstem/progenitor cellsのマーカーである中間係フィラメント ; ネスチンタンパクを肝細胞癌症例のホルマリン固定パラフィンブロックとtissue microarrayを、抗ネスチン抗体を用いて免疫組織化学的に解析した結果、予後の非常に悪い症例と肝癌転移巣に高頻度に発現していることを見出した。この観察から、ネスチンは、ヒト肝癌細胞の遊走・転移・細胞増殖能に関連していると考え、肝細胞癌の予後を推察する新たなバイオマーカーになるのではないかと推測した。本研究では、ヒト肝癌細胞の遊走・転移・細胞増殖能に与えるネスチンタンパクの機能解析とそのメカニズムを追究するとともに、肝細胞癌の針生検と手術材料(パラフィン切片)を用いてネスチン遺伝子・タンパク発現とその予後について病理学的に考察し、予後推察の新たなバイオマーカー開発を最終目的とした。 【研究結果】 ヒト肝細胞癌細胞株のネスチン過剰発現株(HLF)、ノックダウン株(Huh-7)を樹立し、コントロール群と形態的に比較すると、過剰発現株では、変化は認められなかったが、ノックダウン株では紡錘形を呈した。また、細胞遊走能・浸潤能は過剰発現群では亢進し、ノックダウン群では低下することからネスチンは、細胞遊走能・浸潤能に関与していることが示唆された。一方、in vivo 研究として、Huh-7(ネスチンノックダウン肝細胞癌細胞)をヌードマウスに皮下移植し、コントロール群と腫瘍形成能、転移動態を比較したが、統計学的解析では有意な差は認められなかった。病理標本の組織化学的にネスチン発現についての検討では、肝癌細胞の肝生検症例は非常に稀であり、パラフィン切片からmRNAの抽出を試みたが困難であったが、手術摘出肝細胞癌症例を用いたネスチン発現と予後に加え、遊走・浸潤に関与し予後予測バイオマーカーであると以前報告したファシン発現とは強い相関が認められた。 【考察】 神経幹細胞のマーカーであるネスチンは、肝癌予後を推察する新たなバイオマーカーとなることが示唆された。
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