本研究の目的は血圧調節に重要な役割を果たすレニン・アンジオテンシン系(R・A系)、カリクレイン・キニン系(K・K系)、心房性Na利尿ホルモン(ANF)、及びサブスタンスPの遺伝子、即ちレニン、アンジオテンシノーゲン、カリクレイン、キニノーゲン、ANF前駆体及びサブスタンスP前駆体(PPT)の遺伝子の構造と制御機構を明らかにし、その基礎の上に高血圧発症の分子機構を遺伝子のレベルで追求することである。 昭和60年度は、その研究を通して、上記各遺伝子の分離、構造解析を終了し、それぞれの特徴的な蛋白及び遺伝子構造を明らかにするとともに、発現制御に関しても多くの新しい知見を得えた。これ等の知見の中でも、1.前駆体蛋白が多機能蛋白として機能すること(アンジオテンシノーゲン、キニノーゲン、ANF前駆体、PPT)、2.遺伝子発現制御においてRNAスプライシング/ポリアデニレイションが重要な役割を果たしていること(キニノーゲン、PPT)、3.炎症反応において顕著な誘導が見られること(キニノーゲン、アンジオテンシノーゲン)、4.1個の遺伝子に由来する転写産物は種々の組織で発現し、その転写は組織特異的な調節を受けること(アンジオテンシノーゲン)、或いは遺伝子ファミリーを形成し、 個々の遺伝子が組織特異的な発現制御を受けること(キニノーゲン、カリクレイン)など、研究を始める時点では予想もしなかった新しい事実を明らかにすることが出来た。これ等の結果は血圧調節と炎症反応が密接に関連しているという考えを提起するとともに、血圧調節、調節異常の機構、さらに高等動物の遺伝子発現制御機構を理解する上で、今後研究を進めるべく多くの新しい問題を含むものである。従って、上記の結果を踏まえた新しい観点から、血圧調節、高血圧発症機構ならび遺伝子発現制御機構に関して、現在研究をさらに進めている。
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