研究概要 |
本研究の目的は血圧調節に重要な役割を果すレニン・アンジオテンシン系,カリクレイン・キニン系,心房性【Na^+】利尿ホルモン(ANF)系,及びタフィキニン系の分子レベルの制御機構を明らかにし、その基礎の上に高血圧発症の分子機構を追求することである。本研究によって各系のペプチド前駆体とその特異的分解酵素、即ちレニン,アンジオテンシノーゲン,カリクレイン,キニノーゲン,ANF前駆体及びサブスタンスPとKを含むタフィキニン前駆体(PPT-A)とニューロメディンK前駆体(PPT-B)のCDNA及び遺伝子を単離することに成功し、これまで全く不明であった各系の蛋白構造,遺伝子構造,及び各遺伝子の基本的な発現制御機構を明らかにした。その結果、上記各系のペプチド前駆体の新しい機能が明らかとなり(例えば、アンジオテンシノーゲンのセリン・プロテアーゼ阻害蛋白に対する構造の共通性,キニノーゲンとシステイン・プロテアーゼ阻害蛋白との同一性,PPT-Aに含まれる新しいタフィキニンの同定等)、上記各系は他の生物反応系と密接に関連していることが明らかとなった。一方発現制御においても、各遺伝子は単に量的のみならず質的にも調節されている。(キニノーゲン遺伝子或いはPPT-A遺伝子におけるRNAスプライシングの違いによる調節等)ことが明らかとなった。従って本研究によって各系の基本的な分子レベルでの調節機構が明らかになると共に、上記の結果を踏え、血圧調節,高血圧の発症機構を新しい観点から追求する必要のあることが示された。一方上記ペプチドの受容体に関しても、ツメガエル卵母細胞発現系を用い、受容体の発現を電気生理学的に測定出来る方法を確立し、受容体の分子レベルでの諸性質を明らかにした。さらに血圧調節系遺伝子を導入したトランスジェニック・マウスの作製にも成功し、この系の発展によって個体レベルでの血圧調節の解析が追求出来るものと期待される。
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