研究概要 |
我々は高等動物における脳神経機能を分子レベルで解明すべく, 組換え DNA技術を用いて神経情報伝達に中心的な役割を担っている神経伝達物質受容体およびイオンチャンネルの構造と機能に関する研究を進めてきた. すなわち, cDNAのクローニングとその塩基配列の決定により, 典型的な神経伝達物質依存性イオンチャンネルであるニコチン性アセチルコリン受容体(nAChR)のすべてのサブユニットの全一次構造, 代表的な電位依存性イオンチャンネルであるNa^+チャンネルおよびCa^<2+>チャンネルと考えられるCa^<2+>チャンネルブロッカー受容体の全一次構造ならびにGTP結合性制御蛋白(G蛋白)を介して情報を伝達するムスカリン性アセチルコリン受容体(mAChR)の全一次構造を解明し, 神経情報伝達を担う膜蛋白はその構造, 機能, 進化的類似性から上記の三つの基本型に分類できることを示した. またcDNAのクローニングによって, nAChRのサブユニットには従来知られていたα,β,γおよびδサブユニット以外に新しいサブユニット(εサブユニットと命名)が存在すること, 脳に一次構造の異なるNa^+チャンネルが少なくとも三種類存在すること, および一次構造の異なるmAChRが少なくとも二種類存在することを発見した. さらにcDNAから機能を有する神経伝達物質受容体およびイオンチャンネルを発現させる系を開発し, 発現させた受容体およびチャンネルの性質を電気生理学的, 薬理学的ならびに生化学的に解析することにより, 神経支配に伴って起こるnAChRの機能変化はγサブユニットからεサブユニットへの切り換えに基づくこと, ならびにmAChRサブタイプは異なる遺伝子産物であることを見い出すとともに, 脳のNa^+チャンネルの特性を明らかにした. またcDNAのsite-directed mutagenesisによって, nAChRのイオン透過速度の決定およびアゴニストの結合に関与する機能部位を明らかにした.
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