研究概要 |
遺伝暗号は3つの塩基(例えばtRNA上のアンチコドン3塩基)と1つのアミノ酸の間の対応関係を示している。このことが物理化学的基盤によって立っているものかどうかについては議論が分かれており、未だ結着がついていない。我々はtRNA上の4つの塩基の複合体(アンチコドン3塩基プラス識別位塩基)を作るとその上に穴ができ、それが対応するアミノ酸を鍵と鍵穴の関係で受容することを分子モデルを用いて発見した。さらに半経験的な長大な計算が実行されこの事実が再確認された。このモデルでは、アスパラギン酸、ダルタミン酸などの場合、それらのtRNAとアミノ酸の間に特異的相互作用のあること、またフェニルアラニン、チロシン、バリンなどでは相互作用が特異的にならないことを予言する。【tRNA^(Asp)】の場合には第一アンチコドンはキューオシンであり、【tRNA^(Glu)】では第一アンチコドンがmn【m^5】【S^2】Uと修飾されている。これらの塩基はそれぞれ蛍光および円二色性偏光のシグナルを持っているので、アミノ酸を加えていけば特異的相互作用のある場合には飽和効果を見ることによって検出が可能になる。この方法で決められた親和性定数は約200【M^(-1)】であった。一方【tRNA^(Phe)】などについて西独のペルシュケらの実験が独立に行われ、この場合には予言通り特異的相互作用は見つからなかった。我々は更にアンチコドンに対応するオリゴヌクレオチド(主として2塩基)に対してアミノ酸,アミノ酸アミド,アミノ酸メチルエステルを加え、塩基側の紫外吸収を精密測定し、この場合にも特異的相互作用がみられることを示した。ただしアミド、メチルエステルの場合には分子が荷色を持つので塩基との非特異的相互作用が混って特異性はかなり悪くなる。このことは多くの研究者がアミノ酸の代用にこれら化合物を用いることへの警告になる。以上を通じて遺伝暗号の実体としてのC4Nモデルは実験的に基礎づけられたと思われる。
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