1.合成ペプチド脂質の会合形態 水素結合帯を形成できる構造因子としてアミノ酸残基を導入し、化学的にも形態的にも安定な一枚膜ベシクルを単一脂質で形成できるように脂質分子を設計し、その合成に成功した。さらに、頭部基の荷電がカチオン、アニオン、及び中性の種々のペプチド脂質を合成し、単独あるいは混合の脂質系を用いてその会合形態について検討した。特に、立方体相、ヘキサゴナル相などの非二分子膜構造を人工脂質により初めて創出することに成功した。 2.単一膜ベシクルの融合挙動 合成ペプチド脂質が形成する単一膜ベシクルは物理化学的安定性に優れており、通常は全く融合を起こさない。しかし、非イオン性及びアニオン性の脂質の等モル混合系から形成される単一二分子膜ベシクルはpHあるいは温度の調整により非二分子膜構造を経由して融合した。また、二分子膜ベシクルの表面荷電と反対の荷電を有する高分子物質を添加すると、瞬時にベシクルの会合を誘起し、融合して多重層二分子膜構造へ変化した。 3.ビタミン【B_6】依存性酵素モデルの構成 単一二分子膜ベシクル内部の比較的疎水性をもったドメインはミクロ反応場として利用できるとの発想から、このものをアポ酵素モデルとして用い、ピリドキサールを疎水的に修飾したビタミン【B_6】モデルをベシクル内に取りこませてホロ酵素モデルを構成した。この触媒系によるアミノ酸とケト酸の相互変換を検討し、触媒系のターンオーバーを伴なって反応が進行することを見出した。このことは、アミノ基転移酵素の人工化にはじめて成功したことを意味する。 4.ビタミン【B_(12)】依存性酵素モデルの構成 疎水的に修飾したビタミン【B_(12)】を単一二分子膜内に取りこませたホロ酵素モデルを用いて、メチルマロン酸骨格からコハク酸骨格への異性化反応を司どるメチルマロニルCoAムターゼと同様な反応を実現することに初めて成功した。
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