顎顔面領域に生ずる連関痛の発生機序を末梢神経レベル及び中枢神経系において、生理学的手法を用いて研究し以下に記す成果を得た。 1.歯髄及び下顎神経より分離した機能的単一歯髄神経からの記録. 歯の象牙質削面に機械的刺激を加えた時に、インパルスを生ずる単一歯髄神経線維は伝導速度の速い群に属すること、並びに、combound48/80(ヒスタミン遊離薬)を削面に投与した場合に発火する神経線維には伝導速度の遅い群が多いことが解明された。このモデルを用いて、連関痛の原因疾患の一つと考えられている象牙質知覚過敏症の種々の処置法を検討した。その結果、シュウ酸カリウム、塩化アルミニウム、アンモニア銀等の薬液の貼布及びこれらの薬品のイオン導入が効果的であることが確認された。 2.歯髄電気刺激により誘発される咬筋神経の発火様式の変化. 歯髄電気刺激により、咬筋神経には自然発射インパルスの変調が観察されたが、大部分のものはインパルス数の増大を示した。 3.中枢神経系における連関痛発生の機構の検索 大脳皮質一次体性感覚野及び視床腹側基底核群(VPM核)に存在する歯髄駆動ニューロンの同定を行ない、このニューロンのスパイク発射を指標にWhisker Pad、咬筋神経等の顎顔面領域の諸組織に由来するインパルスと歯髄由来のインパルスとの収束様式を検索した。大脳皮質レベルにおいては、約半数の歯髄駆動ニューロンが前述のような収束性を示し、連関痛の発生には中枢での末梢各組織由来のインパルスの収束が重要な役割を演じていることが示唆された。 また、臨床的に連関痛を訴える患者では、歯髄疾患や根光性歯周疾患を適切に処置することにより、疼痛の減弱や消退を得ることが再確認された。さらに、疼痛発現の前には知覚の異常(異和感)が生ずることも観察された。
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