1.目的:レニンは、血圧の調節に重要な役割を演じる酵素である。私どもは、クローン化したヒト・レニンcDNAの上流に、大腸菌trpプロモーターを連結し、大腸菌でのヒト・レニンの発現に成功した。しかし、大腸菌で合成されたヒト・レニンは不溶性で、生物学的に不活性であった。そこで本研究では、レニン分子の再構成による活性の回復について検討を行なった。 2.方法:次の2つの方法を中心に、レニン分子の再構成について検討した。(1)不溶性のレニンを、8M尿素とpH10.7のアルカリ溶液を用いて可溶化した後、塩酸を用いてpHを中性に戻した。次に透析により尿素等を除いて、レニン活性を測定した。 (2)不溶性のレニンを6Mグアニジン塩酸を用いて可溶化し、DTT処理によりジスルフィドブリッジを還元した。3Mグアニジン塩酸で平衡化したセファデックスG-25のカラムに、このサンプルを通し、グアニジン濃度を3Mまで下げ、システイン/シスチン混合液を加えて4℃で一晩放置した、タンパク濃度を5μg/mlに合わせた後、透析によりグアニジン塩酸等を除去して、レニン活性を測定した。 3.結果:(1)の方法では、調製した菌体の湿重量に対して、8M尿素5vol.アルカリ溶液50vol.または、尿素10vol.アルカリ溶液50vol.を加えた時に、もっともレニン活性の回復が見られた。しかし、この比活性は、前回報告した方法の約10分の1の値であった。 (2)の方法では、ゲルロ過におけるpHは8、SH試薬としてシステインとシスチンを用いること、透析のタンパク質濃度をできるだけ薄くすることなどが必要であった。得られたレニンの比活性は、前回報告した方法による場合に比べ、約3倍高い値となった。しかし、この比活性は、腎臓から抽出したレニンに比べると、まだ十分ではないので、さらにレニン分子の再構成の方法について検討が必要である。
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