本研究は第一言語としての日本語の習得過程を統語法(syntax)の観点から解明し、その発達段階を標準化するモデルを作成することを目的として、その為の基礎研究を行ったものである。研究は以下の3点を骨子とする。第一に、従来行われてきた通時的縦断法と共時的横断法によるデータ収集を一本化する方法を試みた。即ち、複数の対象児童(試用データでは0〜4才、分析基礎データでは2〜4才)の発話を5ケ月間にわたりテープ収録した後、それを筆録化、次いで、フロピィ・ディスクに収積した。第二に、分析方法として、レデイング大学作成のLARSP(言語障害時用治療標準モデル)を日本語に合わせて修正し、応用した。即ち、旬と節の内部に於ける語順の自由度をプログラミングし、Wordレベルに助詞の機能分類を導入した。第三に、分析基礎データとして抽出した3名の児童(2才前半期から4才前半期へとそれらの児童は移行する。)の発話記録を各児童につき各月最初の100発話ずつ取り出し、この修正型LARSPにより分析した。その分析結果を各プロフィル・チャート上にClause、Phrase、Wordの3レベルにわたって図表化することにより、各構成素の発現の推移を各時点に於て明確に把握することができた。この標準化方法により、言語習得という発達過程を共時的横断研究として行うと共にプロフィル・チャートという枠組を用いることによって通時的縦断研究として行うことが可能となった。また、コンピューター使用により、分析作業が迅速化され、分析をより広範囲に行うことが可能となった。以上の研究の結果、対象児童の個別の発達を鮮明にプロフィル化でき、また、それを用いて各児童間の比較が容易となると共に、この枠組を用いることによって異った言語間での発達現象を比較する道を開いたと言えよう。
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