地球規模での大気エアロゾル粒子の酸性度の実態を明らかにするうえで、人間活動の影響の少ない海洋大気中でのエアロゾル粒子を対象とした研究観測は重要である。昨年夏期に小笠原高気圧圏内の八丈島-父島海域で実施したエアロゾルの航空機観測の結果、陸地の影響を受けない純粋な海洋大気の中ではsulfate粒子が光化学的2次粒子として卓越成分であり、硫酸ミスト(【H_2】【SO_4】)の形で存在していることを示唆する極めて重要な知見が得られた。 本年度は昨年の研究成果をより直接的に実証するため、硫酸ミスト(【H_2】【SO_4】)を特異的・撰択的に同定することができるCa-薄膜法(小野etal1983)を用いてエアロゾルの航空機観測を実施した。航空機観測は本年8月7日〜8日東経140度線に沿った八丈島-硫黄島-19゜Nの海域で3Kmと4.8Kmの2高度で実施した。その結果得られた研究成果は次の通りである。 (1)この海域では光化学的2次粒子であるSulfate粒子が卓越成分であり、その酸性度には硫黄島を境として大きな差が見られた。 (2)硫横島以南ではsulfate粒子はCa-薄膜と直接反応し、形態的にはSotellite構造を持つ硫酸ミスト(【H_2】【SO_4】)であった。一方硫黄島以北では、sulfate粒子はCa-薄膜とは全く反応せず、且つ形態的にはSatellite構造のない硫酸アンモニウム【(NH_4)_2】【SO_4】であった。 (3)850mb面での気塊の流跡線解析の結果、硫黄島以南の気塊は純粋な海洋大気で、硫黄島以北の気塊は日本本土など陸地の影響をうけた(おそらくアンモニア濃度レベルの高い)気塊であった。 昨年度と本年度の観測結果を綜合すると、純粋な海洋大気中では光化学的2次粒子としては硫酸ミスト(【H_2】【SO_4】)が卓越成分として存在していることを、世界で初めて実証することができた。今後の研究課題は、海洋大気中の硫酸ミストの起源を明らかにすることである。
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