家蚕卵を少なくとも2ケ年間保存する技術体系を確立することは、蚕種製造の効率化、家蚕遺伝資源の安定推持の上で緊急な課題である。この課題を解決する目的で本研究が進められた。得られた成果は以下のようにまとめられる。 休眠卵を対象に長期間保存を試みる場合は、休眠期間をいかに延長するかについて検討することが有効であると考えられ、種々の実験の結果、休眠卵を直接1°Cに冷蔵することが極めて有効であることが証明された。この処理は少なくとも2ケ年間休眠状態を維持することを可能にした。しかし非休眠卵に対しては1°Cよりも10°C冷蔵が効果的であった。休眠ホルモン投与によって休眠化した卵では1°C冷蔵は有効な長期間保存法であった。 休眠性は種々の生化学的な性質によって特徴づけられている。卵の長期保存との関係では、卵殻の脂質組成、卵黄中の多価アルコールやその代謝酵素系、さらに胚のDNAやRNA、たんぱく質合成能が特に注目されるものである。これらの物質の代謝変動を人為的に調節する機構の解析は卵の長期保存の新らしい方法の確立につながる。 発育中の卵巣を液体窒素中に凍結保存する方法を確立した。凍結融解後、宿主内で卵成熟を完成させ、成熟卵を人為単為生殖法によって発生を進めるなどまだ技術的には改良しなければならない点は残っているが、新らしい視点を示したものである。 非休眠卵の長期保存にあたって、卵を生理食塩水中に浸漬した状態で冷蔵することの有効性も明らかにされ、卵保護に対する嫌気状態の試験とともに今後の保護状条設定の示唆となった。 低温冷蔵に対する品種特性について種々検討した結果、低温耐性は遺伝的な支配下にあることが明らかにされ、長期保存に耐える品種の選抜の可能性を示した。
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