細胞膜のカルシウム(【Ca^(2+)】)channelに働き、細胞内【Ca^(2+)】濃度の上昇を抑制する作用を有するカルシウム拮抗薬は、虚血性心疾患や高血圧の治療薬として広範囲に用いられ、高い評価を受けている。しかしこれらの薬物は様々な薬理作用を持つことが報告され、一つのものとして考えることは不可能である。 我々は近年、カルシウム拮抗薬の中には細胞内カルシウム受容蛋白であるカルモデュリンに対する阻害作用を有するものも存在することを報告してきたが、ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬には抗カルモデュリン作用については報告がなされておらず、より詳しい研究が期待されている。 そこで我々は新規合成ジヒドロピリジン系薬物CV-159についてカルモデュリンに対する作用を検討した。 1.CV-159は平滑筋ミオシン軽鎖キナーゼ(MLCK)活性を低濃度にて阻害し、その【IC_(50)】は6.2μMであった。 一方同じジヒドロピリジン系薬物ニカルジピンの同酵素に対する【IC_(50)】は100μM以上であった。 2.CV-159はもう一つのカルモデュリン依存性酵素であるホスホジェステラーゼ(【Ca^(2+)】PDE)をも低濃度で阻害し、【IC_(50)】は0.55μMであった。 3.CV-159によるこれら2種類の酵素への阻害効果はカルモデュリンの過乗添加により消失した。 4.CV-159はカルシウム依存的にダンシルカルモデュリンの蛍光を阻害した。 これは代表的なカルモデュリン阻害剤であるフェノチアジン系薬物及びナフタレンスルホンアミド系薬物がその蛍光を増強するのとは全く逆反応であった。 以上の結果よりCV-159は一連のジヒドロピリジン系薬物とは異なり、強力なカルモデュリン阻害作用を有すると共に、ダンシルカルモデュリンへの作用から従来のカルモデュリン阻害剤とは異なる可能性を示唆するものであった。 すなわち、カルシウム拮抗薬はその化学構造に対応して分子レベルでの作用が異なり、今後分子レベルでの作用機序に基ずくカルシウム拮抗薬の分類が必要であると思われる。
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