研究概要 |
毒素原性大腸菌は、60℃10分の加熱によって失活する易熱性エンテロトキシン(LT)と、100℃10分の加熱によっても失活しない耐熱性エンテロトキシン(ST)の2種類の下痢原因毒素(エンテロトキシン)を産生して、ヒトに下痢を起こす。このうちLTについては、簡易検出法が開発されているが、STの検出法は乳のみマウスを用いる方法しか利用できず、簡易検査法の開発が待望されていた。本研究は、ヒトに下痢を起こす2種類のSThおよびSTpについて、その構造、物理化学的性状、免疫学的性状を明らかにするとともに、それらの基礎データを基にして、簡易検出法を開発することを目的として行ない、以下の成績を得た。 1.STh、STpはそれぞれ19個、18個のアミノ酸から成るペプチドであることを明らかにし、それぞれのアミノ酸1次構造を決定した。 2.決定したアミノ酸1次構造に従い、STh、STpを化学合成した結果、合成STh、合成STpが天然の標品と同じ生物活性、免疫活性を持つことを示した。 3.STh、STpの短鎖アナログを化学合成し、STの生物活性に必須の13個のアミノ酸から成るペプチドを決定した。 4.SThに対するモノクローン抗体を調製し、このモノクローン抗体がSThおよびSTpの生物活性を中和するとともにELISA法で同程度に反応することを確かめた。 5.合成STを固相に用い、上述のモノクローン抗体を利用したcompetitive ELISA法を開発し、この方法が1ng/ml以上のSTh,STpを検出できることを示した。 6.合成STとモノクローン抗体を組合わせたST検出用キットを試作し、これがST産生性大腸菌の検出に有用であることを示した。
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