粒子状物質の吸入による生体へ及ぼす影響は、長い間、その重要性が認められながらも、長期間一定の暴露濃度および粒径分布を保つのが困難なため、実行されていなかった。今回、連続式流動層による発塵装置の開発および流体力学的に良好な暴露チャンバーを試作し、上記問題を解決した。さらに、今後大きな環境問題になると予測される石炭火力発電所から排出されるフライアッシュについて、実際に1年間の長期吸入暴露実験をラットを用いて実施し、開発された装置が有効に働くことを確認するとともに、下記の結論を得た。 1.すべての実験において、暴露群の体重増加率には、コントロール群と比べて顕著な差異が認められなかった。 2.肺の肉眼的観察によれば、高濃度暴露群において、肺全葉にフライアッシュ粒子の著しい沈着が認められた。 3.高濃度暴露群の肺重量を除いて、暴露群の臓器重量はコントロール群と比較して顕著な差異は認められなかった。 4.アルミニウム量から推算したフライアッシュの肺内沈着量はコントロール群と比較して著しく増加していたが、他の肝、腎、脾臓中の沈着量については、差異は認められなかった。 5.肺内沈着率については、粒子径、暴露濃度の影響が認められた。 6.暴露により肺内に取り込まれたフライアッシュは、1年程度のクリアランス期間では、ほとんど排泄されないことがわかった。 7.暴露したラットの肺中リン脂質量、とりわけフォスファチジルコリン(FC)量は、著しく増加した。さらに、PC中の脂肪酸組成で不飽和脂肪酸の低下と、パルミチン酸の増加が見られた。 8.暴露直後屠殺した肺の病理組織学的検索では、フライアッシュを貧食したマクロファージの増加および慢性間質性肺炎の病理像が観察され、粉塵結節への移行が示唆された。
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