研究概要 |
アルツハイマー病脳に蓄積するPaired Helical Filament(PHF)の構成成分の同定はPHFの不溶性のため困難をきたしている。われわれは、免疫化学的同定を試み抗PHFモノクローナル抗体を調製した。マウスでは抗体をつくるのは非常に困難であり、Lewis系ラットを免疫動物として用いた。その結果抗PHFの1クローンが確立された。このモノクローナル抗体(DF1)がPHFに結合することを以下の方法で確認した。単離したneurofibrillary tangleをDF1が染めるかどうか。ホルマリン固定切片中のfangleを染めるかどうか。Immunogold法を用いて電顕下にDF-1がPHFに結合するかどうか。この結果DF-1は確かにPHFに結合することが判明した。Inmunoblot法で、DF-1は水溶性画分中の分子量約5,000のタンパク(5kタンパク)を認識した。5kタンパクは対照脳、アルツハイマー病脳の双方に存在した。われわれはこの5kタンパクがPHFの前駆体という想定のもとに、5kタンパクを精製しその一次構造と決めタンパクの同定を試みた。対照脳の水溶性画分を出発材料として、硫安分画、セファデックスG50、HPLCを用いて5kタンパクを精製した。精製5kタンパク標品を用い、気相シーケネータで、N末端から34番目までのアミノ酸配列が決定できた。データベースの検索からこの34個のアミノ酸配列はヒト・ユビキチン(76残基)のN末端配列と完全に一致した。したがってモノクローナル抗体DF1が認識する5kタンパクはユビキチンである。この事実はユビキチン自体がPHF内にくみこまれていることを示唆する。ユビキチンは細胞内のATP依存性タンパク分解機構において重要な役割をしている。ユビキチンがATP依存性に標的タンパクとの間にイソペプチド結合をするとその標的タンパクは分解される。何故ユビキチンがPHF上に濃縮されて存在するか現在のところ不明である。ユビキチンが細胞骨格成分(例えばtau)と結合し、PHF上に固定化している可能性が考えられる。
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