血液と触れる人工臓器などに用いられる抗血栓性材料について、私たちは、どのような表面構造、分子構造をもつ高分子材料がその目的に適うのかを基礎的・解析的に研究してきた。その結果、親水性と疎水性、結晶性と非晶性などといったように性質の異なる二つの成分から成る共重合体高分子のうち、特に連続したラメラ状のミクロ相分離構造をもつ高分子が、その表面における血小板粘着と粘着した血小板の活性化反応を抑制するというメカニズムを通して、抗血栓性に優れていることを明らかにしてきた。 本研究では、上記の性質をもつ2-ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)とポリスチレン(St)、きわめて疎水性の高いパーフルオロアルキルアクリレート(FAA)とSt、などから成る共重合体を試料として、in vitroテストとしてマイクロスクィア・カラム法により粘着血小板が少なく、かつ、粘着した血小板の変形および放出反応が顕著に抑制されていることを明らかにした。 次いで、これらの試料を、内径1.2〜2mmのポリウレタン管の内面にコーティングし、これをウサギの頚動静脈間にシャントとして插入して、その開存性(超音波血流計による血流計測を利用)と循環血液中の血小板数およびその機能を調べた。その結果、本材料によるシャント人工血管は従来の親水性あるいは疎水性のホモポリマー(ポリHEMA、pstなど)や既存の抗血栓性材料に比べて格段に長期間(2〜3週間)にわたって開存性を保ち、かつ、シャント宿主動物の循環血液中の血小板数の減少や血小板機能の変化をきたさず、優れた抗血栓性、血液適合性を示した。また、イヌの冠動脈バイパス用人工血管として用いて、4週間程度の開存を得ることができた。 今後、材料高分子の人工血管へのコーティング方法、血管の吻合法などについて検討を重ねて実用化に近づく方針である。
|