超音波による画像診断は生体へ為害作用を及ぼさずに軟組織や臓器の状態を描出し得るため、口腔領域各種疾患の診断にあたっても有用な方法であると考えられる。しかし従来の探触子は口腔外の皮膚面に接触させるものであり、探触子と病変部との間に空気、骨が介在する口腔領域ではその適用範囲に限界がある。そこで本研究は口腔内へ插入して病変部と密着させ得る探触子を開発し、それを実用化して口腔領域各種病変の超音波画像診断を行うことを目的としたものであり、本年度の研究実績は次のとおりである。 1.リニア電子スキャン方式超音波診断装置に接続して口腔内へ插入可能な小型の探触子を開発した。本探触子は水袋、寒天を伝達媒体として使用することにより口腔内の複雑な形態に密着させることができるため、従来の探触子では適用不可能な部位の疾患に対しても応用可能である。この探触子は周波数2〜9MHz、焦点深度30mm、距離分解能1mm、方位分解能2mmであり、微細な変化を描出することができる。 2.本探触子を舌癌、上顎癌、口蓋多形性腺腫、口唇粘液嚢胞および口蓋裂の各症例に臨床応用したところ、疾患によりそれぞれ特徴的な超音波像が認められ、同時に病変の範囲および周囲組織との関係が描出された。これら症例の超音波像を手術による摘物所見、術中所見および病理組織学的所見と比較検討したところ、概ね一致しており、超音波像は病変の特徴的な性状を現わしていることが確認された。これらの結果から口腔内用超音波診断法は口腔領域の疾患の診断と治療に有用であると考えられた。
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