高速液体クロマトグラフィー(HPLC)は、温和な条件下で微量の試料を成分毎に分離分析する技術であり、熱的に不安定、或いは、高極性物質を含む生体液の分析には適した方法である。しかしながら、尿・血液等に含まれる成分数は極めて多く、現在入手可能な高性能の分離カラムを用いても、クロマトグラム中に不分離ピークが存在することは避けられない。この点はHPLCを用いてできるだけ多くの成分をモニタし、疾患診断に有効な情報を得るためには問題である。本研究ではこの点を解決するために、試料の保持時間のみならず吸収スペクトルをも測定する高速液体クロマトグラフィー多波長同時検出システムを開発し、実際に尿等の生体液の分析に応用し、その有効性について検討を行った。 まず、マイクロコンピュータにより制御される200nmから800nmまでの波長領域での吸光度を計測記録できるハードウェアシステム、これらを総合的に制御するソフトウェア、本システムを用いて得られる膨大な量の測定データを効率良く処理するための専用データ処理システムを開発した。そしてこのシステム上で1回の測定データを多角的に解析し、吸収スペクトル表示、3次元クロマトグラム作成、吸収スペクトルの比較、2サンプル間のクロマトグラムの比較等のソフトウェアを開発した。次に、実際に健常者及び疾患患者尿の分析を行い、単一波長吸光度計では単一ピークと考えられていた物が、多波長検出すると実は混合物からなるピークであることを確認するなど、本システムが生体液分析に有効であることを確認した。また、ある疾患尿においては健常者尿には見られなかったパターンが観察された。更に、これらを計算機により自動的に検出する試みとしてピーク高さの統計的な解析や、多変量解析を試みたが、ある疾患患者尿中の多成分の量的な変動形態が健常者のそれと異なることが観察された。
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