5SRNAを分子時計として、330種にのぼる生物の分子系統樹を作成した。本年度は特に、緑色植物、褐藻、紅藻に重点をおき、これらに属する多数の生物の5SRNA塩基配列を決定、それぞれの生物を系統樹中に位置付けた。緑藻を含む緑色植物、菌類、褐藻はほぼ同時期に別方向へ進化した生物群と考えられ、相互の関係は希薄である。また、紅藻は上記3生物群よりはるかに初期に出現しており、真核生物の中でもっとも古い生物群であると結論された。 リボソーム関連遺伝子については、ゲノムDNAのGC含量の低いマイコプラズマの遺伝子について詳細は解析を行い注目すべき下記の結果を得た。遺伝暗号は、生物進化の初期に確立し、凍結されたと考えられていたが、マイコプラズマのリボソームタンパク遺伝子の解析の結果、終止コドンUGAがトリプトファンによまれることを発見、更にUGAに対応するtRNA遺伝子およびその転写産物(tRNA)の存在を証明した。この発見と相前後して原生動物では終止コドンUAA/UAGがグルタミンによまれることが報告され、遺伝暗号はその確立後もある範囲で現行暗号表から外れて変化しうることがわかった。マイコプラズマでは、ゲノムGC含量の低さに呼応して、AとUの多い遺伝暗号が圧倒的に多数使われていることを見出したが、上記のUGAがトリプトファンに読まれるのも、一般のトリプトファンコドンUGGが、GC→AUの選択圧の影響により進化の過程でUGAに変換したものと考えられる。 一方、ゲノムのGC含量が最高の細菌であるミクロコッカスのリボソームタンパク遺伝子の解析を行いつつあるが、この細菌では、マイコプラズマとは逆にGCの多い遺伝暗号が圧倒的に多数使用され、開始コドンもAUGのかわりにGUGが使用される傾向がみられた。 現在、生物界における遺伝暗号の可変性の範囲、パターン、要因などの研究を続行中である。
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