大腸菌のRecA蛋白質は相同な塩基配列を持つDNA分子同士を相互作用させて、普遍的組換えを行うだけでなく、DNA障害発生時には障害修復遺伝子の共通りプレッサーを切断不活化して、それらを一斉に発現させる働きを持つ多機能蛋白質である。分子量約4万の1本のポリペプチド鎖の蛋白質が、どのようにしてこのような多機能を発揮するのか、その分子機構は大変興味のあるところである。蛋白質の機能はその構造によって荷なわれているが現在までのところX線結晶構造解析に適した結晶を得ることは、どこの研究室でも成功していない。そこでわれわれは、分子遺伝学的手法を駆使して、RecA蛋白質の構造に関する情報を得る方法論の開発を試みた。 先づrecA遺伝子の変異を組織的に分離し、それらの変異位置が遺伝子全体に散らばるようにした。各変異の遺伝的な諸性質を調べた結果、機能ドメインや構造を解析する上で重要な手掛を与えるものが多数えられていることがわかった。その中でも特に重要と思われるものについて蛋白質を精製し、生化学的、物理化学的諸性質を詳細に解析した。これらの知見をもとに、大まかな機能ドメインを明らかにした。その中でも特記すべき成果として、1.RecA蛋白質のC末端は、この蛋白質の活性化を制御し、機能上はN末端とも関連がある。2.リプレッサーの特異性を識別するのはC末端から全体の1/3の位置にある部位である。3.ヌクレオチド(ADP)結合部位は、N末端から全体の1/3の位置にある、ということがわかった。更に1つのドメインの中に起きた変異から、その抑制変異を多数分離し、それらの位置関係や抑制変異単独の性質などを調べ、機能ドメインモデルをより明確にし、またドメイン間の関係を明らかにすることができるようになった。また詳細なX線結晶解析が可能な良質の結晶を得る努力が、現在も変異蛋白質を含めてRecA蛋白質についてなされている。
|