津田塾大学出身者を対象にした調査にもとづき「高学歴女性の生き方」を多面的に分析することを試みた。津田塾大出身の四世代、約400名に対する面接調査を行ない、各ライフステージの問題、人生上の転明、職業生活、結婚生活、家庭状況、老後等について調べた。1920年前後に津田塾を卒業した、いわゆる初期津田をつくった「麹町世代」は極めて特異な性格をもつ。この世代は、出身階級が高く、出身地も大都市が多く、津田への入学以前の時点でミッション・スクール等で英語ないし外国人と接した機会を多くもっていた。啓蒙的で自由主義的な家庭の出身者が多く、父親が牧師のケースも多々あった。父母は娘の進学に対して好意的であり、当時の「女に学問はいらない」という常識とは異なった業績主義的価値観をもっていた。出身者たちは、カリスマ性の強い津田梅子の教育によって大きく影響された。この世代の多くは、大正デモクラシー期に属しており、出身者の多くは留学したり、夫君とともに、当時としては特権的少数者にのみ許された海外生活を満喫していた。戦争が近づくと英語が禁止され、戦時中に津田出身者にとって不幸な時代となる。逆に戦後は、占領軍がアメリカであり、アメリカは自由主義、業績主義、男女平等を旨としていたことが津田出身者に幸する。英語への需要が増え、出身者の多くは英語を使って活躍する。津田出身者の職歴はかなり断続的であるが、印象的なのは、常勤の一般男性からみると不規則な労働が少なくないにもかかわらず、彼女らは仕事に固執し、そこにいきがいを求め続けたという点である。SSMのカテゴリーは、そうした女性の仕事には、うまく適合しない。そうした点は、後の三世代にも薄められた形ではあるが受けつがれている。ただ後の世代には、「麹町世代」のような「価値創出的行為」としての津田進学という性格が希薄となっている点は、残念ながらいたしかたないといえよう。
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