電子冷却法によって得られる高質ビームを核物理等の研究に応用しようという計画は各国が競って立案し、そのいくつかは建設が始められている。この様な情況の下での本研究はこの分野の研究をリードするものとして意義深い。前年度既に基礎研究を行ない、その一部は既に建設が宏了している。今年度はこれらの研究を一層深めると共に新たに次のステップとしての冷却装置を製作し研究を継続することができた。まず電子誘導磁界中での電子温度を下げる為に高次の補正を可能にするフイルを製作し、測定を繰り返した結果、電子軌道の全領域に渡って極めて一様性の良い磁場を作ることができた。一方電子ビームの通過部は全て超高真空に保つ必要があるが、この様な超高真空を実現する真空容器を設計製作した。この容器はその真空槽としての機能以外にもいくつかの重要な役割を果たすものである。まず電子誘導磁界の均一性を乱すことがあってはならないので全て材質はSOS316Lを主体とする完全非磁性物質で作られた。また加工、溶接工程で金属の性質が変って磁性を帯びることがあるので製作にあたっては細心の注意が払われた。この容器には各種排気ポンプが組込まれるので、これらを効率良く作動させるための設計を行なった。電子通過部周囲にはドリフトチューブを設置し、漏洩電子電流の測定、電子エネルギーの補正、ビームの位置検出ができるようにした。又内部に設置したアンテナによって電子から放出される電波を検出し、電子温度を測定することもできる。電子冷却を終えた電子は減速後コレクターで回収するが、この目的に使う減速管も製作した。これらはいずれも目標とする性能を達成することができたが、更にこれを磁界内に入れて小型電子銃による電子軌道観測の研究も進行中である。又電子冷却過程の計算機実験をCERNと共同で行い蓄積リングの最適化を行った。これらの成果は下記文献で発表し、更に春の物理学会でも講演する予定である。
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