研究概要 |
パーフェクトロンの特徴を最大限に活かした実験として,昭和61年度は複雑な分子の解離過程,即ち有機金属錯体の多光子過程におけるフラグメンテーションを中心に調べた。フォトンの吸收がある特定のボンドに集中して起るのか,あるいは一旦吸收されたエネルギーが複雑な分子の内部自由度に緩和された後に特定のボンドが切れるのかという統計物理学の基本問題から,化学反応を制禦するといった応用面に到るまで,重要な問題を数多く含んでいる。有機金属錯体のフラグメンテーションは大別して次の3つの過程がある:(1)親分子がまずイオン化し,それからフォトフラグメント・イオンに解離する過程(A過程)。(2)親分子がまず中性フラグメントに解離し,つづいて各フラグメントがイオン化する過程(B過程)。(3)親分子がフォトンを多数吸收して,まず超励起状態に励起され,そこから一度にフォトフラグメント・イオンに分解する過程(C過程)である。これらの過程を調べるには,複雑な各フラグメント・イオンの質量分析やエネルギー分析を同時測定しなくてはならないだけでなく,フォトンを吸收してから分解するまでどの位の寿命があるか,分解の角度分布はどうか,等を一度に測定しなくてはならない。これらは励起状態の電子状態,即ち対称性と寿命に密接に関係していて,複雑なポテンシャル超曲面上をどのような過程で分解していくかを知ることができる。そのためにはレーザを直線偏光にし,その偏光面を回転させながら分解するフラグメントの強度分布を測定する異方性因子を求めればよい。パーフェクトロンは完全收束の質量分析とエネルギー分析が可能なだけでなく,異方性因子の測定には実験室糸の角度分布を重心糸に変換する必要のないヤコビアンが1の分析器であるため,従来の方法では得られない多くの新しい情報を得ることができた。異方性因子のレーザー波長依存性はその一例である。
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