パーフェクトロンは、従来の測定技術と原理が全く異なる新しい型のビーム交差法分子線散乱装置で、本研究代表者の発案による。これを用いて励起分子のダイナミックスを系統的に調べ、以下のような多くの新しい知見を得ることができた。 1.余剰エネルギーの分子内自由度への分配:分子の光分解過程は反応性衝突の後半部分、いわゆる"Half Collision"とみなすことができるので重要である。しかもレーザーの余剰エネルギーが、分子の内部量子状態(電子・振動・回転)および並進運動のエネルギーにどのように分配されるかは統計物理学の基本的問題に係わる重要な課題である。パーフェクトロン実験では、生じたフラグメントを多光子電離(MPI)でイオンにして100%の収束効率で質量分析し、しかも殆んど0エネルギーまで並進運動を観測できる。回転・振動・電子状態へのエネルギー分配はレーザー波長を詳細に掃引することによって決定することができるので、光分解のキネマティックスを極めて高い精度で決定することができた。 2.異方性因子の測定:直線偏光レーザーの偏光面を回転させながらフラグメントの角度分布を測ると異方性因子が得られる。パーフェクトロンはヤコビアンが1の分析器であるため、実験室系の角度分布を重心系に変換する必要がなく、親分子の速度分布にもフラグメントの速度分布にも関係なく異方性因子が得られるので極めて高い精度が得られる。事実4次のルジャンドル項を分離して2光子解離の中間状態の対称性と寿命とを初めて決定し得た。 3.上記のエネルギー分配と異方性因子の測定法を駆使して、有機金属錯体のフラグメンテーション、特に超励起状態を経由する過程を調べた。このような複雑な過程の研究は、従来のフォトフラグメント分光の技術では困難である。結果は現在解析中である。
|