本研究は、超高真空下において原子に真空紫外光を照射して光イオン化させ、その高エネルギー状態を利用して結晶のエピタキシャル成長温度を下げることを最終的な目標としている。その基礎として、1:光イオン化過程の解明、2:真空紫外光照射によるエピタキシャル層の結晶性の改善、3:高真空下における低温エピタキシャル成長法の確立、の三課題について研究を進めた。得られた成果は下記の通りである。 1:大面積照射可能な真空紫外光源の試作を行い、安定した真空紫外光を得ることに成功した。化合物や混晶半導体の重要な構成元素であるAlを取りあげ、光イオン化の基礎過程の解明を行った。光イオン化率のAl原子束量、照射光子量依存性より、一光子によるイオン化過程が支配的であり、光イオン化率は光子数に正比例して増加する。 続いて、半導体材料として最も重要であるシリコンを取り上げ、その低温エピタキシャル成長法の確立を目指した。 2:成長時にシリコン基板ならびにシリコン原子束に真空紫外光を照射することにより、エピタキシャル層内の双晶の数が減少し、結晶性が改善される。 3:超高真空下においては、800〜900℃の比較的低温での熱処理によって基板表面を原子的レベルで清浄化できることが電子線回折法によるその場観察で明らかになった。不純物が残存している基板表面には多結晶しか成長しない。しかし、原子的レベルで清浄な表面には、650℃の低温でも単結晶がエピタキシャル成長できる。 以上により、本研究の初期の目的は達成された。今後、イオン化率の向上を図るとともに、イオンのエネルギーを制御して結晶性に及ぼす効果を調べる。さらに、光イオン化のみならず、真空紫外光による高エネルギー励起を活用して、基板表面清浄化、原子束活性化を行い、結晶成長が困難な高融点材料の低温製作法の開発を目指す。
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