珪素鉄を6%程度含む高珪素鉄合金は、極めて高い電磁特性を示すが、脆いため工業製品となり得なかった。 本研究者等は、融体超急冷法を用いてこの合金を薄帯状にすることに成功し、かつ高い電磁特性が得られる方法を見出したので、その成果の概要を以下に述べる。 まず、900〜1000℃で薄帯を熱処理する方法について研究した。 そこで、高い電磁特性を与えるためには、柱状構造を発達させてしかも、(100)面内無方向組織を出現させればよいことが判った。 次に、この組織を出現させるためには、930℃の熱処理温度を越えて加熱する過程では、雰囲気の真空度を【10^(-3)】より低く保つことが必要である。 もし、誤って【10^(-4)】以上の高真空度の雰囲気内で熱処理を行うと、(110)面内無方向組織が出現してしまい、希望する電磁特性は得られないことになる。 (110)面内無方向組織は好ましくないものではあるが、この面内に含まれる磁化困難方向〔111〕の結晶エネルギーと、容易磁化方向〔100〕の結晶エネルギーとの差、すなわち磁気異方性エネルギーを低減させることができれば、電磁特性はさらに向上するということが判った。 このためには、原料合金の単結晶を多数作り、第3元素を添加して異方性低減の可能性を見出す必要があると考えた。 本研究では、第3元素の代表選手としてまずTiを取り上げ、10種以上の単結晶試料の製作を企て、それぞれが数cmにおよぶ単結晶の育成に成功した。 各単結晶は(110)面にそって円板状に切り出して、磁気異方性をトルク・メータを用いて測定した。 また、Ti添加の効果を知るために、鉄と珪素のB2型規則格子の変態点がいかに変化するかを考察した。 さらに、電磁特性が電気機器の磁気損失特性に及ぼす影響を計算するという長年の未解決問題に緒を与えるべき新手法として、Chua形磁化特性モデルを用いる高速計算方法を提案した。
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