濃度変調を伴う規則一不規則転移を規則度と濃度ゆらぎおよびそれらの相関を考慮して、速度論的立場から実験・理論の両面より議論した。先に導出した2次の規則一不規則転移を行う2元合金の規則化の非線型速度方程式の解をより詳細に検討し、規則相の安定性と相分離過程をシミュレートした。その結果、非化学量論組成の合金においては、規則相は濃度変動を伴った規則化に対して不安定になり易い性質をもち、規則相の相分離が強い規則化の傾向から生じることが明らかになり、規則化と相分離過程の統一的な理解が可能となった。また、この場合には初期の規則状態が大きな影響をもち、初期規則度が小さいときには均質規則化が支配的であるが、大きくなると均質規則化より濃度ゆらぎを伴った規則化(スピノーダル分解)が優勢になり得ることを見出した。速度式からの予測を実験的に確認するためFe-Al合金のD【O_3】→(α+D【O_3】)相分離過程に着目し、初期のD【O_3】規則状態を系統的に変化させ、X線回折および電子顕微鏡観察により調べた。その結果、規則ドメイン内でのスピノーダル分解反応と逆位相境界上での析出反応の競合関係が、初期の規則ドメインサイズの違いにより異なることが見出され、速度式から予想された傾向と一致した。 さらに、CuPt合金の規則化に伴う合金内の微細構造変化を電界イオン顕微鏡を用いて原子的尺度で直接観察し、この合金の規則化は規則ドメインの生成・成長とドメイン内規則度の増加が互いに影響を及ぼしあいながら進行していることを見出した。また、この実験結果をふまえて規則化の速度式を導出し、初期のドメイン内規則度は低いが、ドメイン同志が接するようになって初めてドメイン内の規則度が急激に増加することを説明した。さらに、Fe-Mo合金に電子線を照射した場合に、照射誘起スピノーダル分解を見出し、この機構を照射によって導入された点欠陥の量と関連させて解釈することに成功した。
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