自然流域における蒸発散損失・雨水の表面流下成分と土中浸透成分の分離・土壌水分の再配分と地下水流出などのいわゆる水循環の素過程についてはほとんど末解明であり、水文学上の旨点となっている。本研究では、水文学的に有意な蒸発散モデルを提示するとともに、降雨・蒸発条件下で土壌水分流動モデルを案出し、雨水の再配分・地下水流出過程を物理的・数理的に明らかにしようとしている。 1.観測・調査 初年度に設定した試験地での全観測を継続するとともに、既設の傾斜ライシメータに熱収支法にもとづく蒸発散計測装置を設置し、観測網の整備を行った。 2.蒸発散量の定量的表示式 傾斜ライシメータの水収支を測定するとともに、地表面付近の放射収支量・地中伝熱流量・乾湿球温度差・平均風速を測定して、大気と地表面とのエネルギー交換過程及び熱収支を明らかにしたのち、蒸発量の定量的表示式を検討した。その結果、地中伝熱流量の測定法について検討すべき点はあるが、熱収支式を用いてかなりの精度で蒸発量が測定できることが明らかになった。 計器蒸発量と上記推定式により得られた蒸発量との関連性については、土壌水分や気候条件によって傾向が異なり結論を得るまでには至らなかった。さらに観測資料を集積する必要がある。 3.土壌水分の再配分過程と流出モデル 京都市南部の丘陵試験地において、浸透能試験・土壌調査を行い雨水浸透機構を検討した。その結果、丘陵斜面域には大小様々なmacroporesが分布しており、浸透能に直接的に影響するほか、土壌の不飽和・飽和透水係数を大きく変えていることが明らかになった。また、macroporesを含む土壌体中の浸透流を、Richards式と毛細管中の粘性流動で表し、F.E.M.を用いて解析した。このモデル化は丘陵地斜面の雨水浸透・地下水流出過程の表示に役立てられる。
|