研究概要 |
1.B-A多型地図の作成: ColE1プラスミドDNAについて、B-A転移の安定性がDNAの2重ラセンに沿って局所的に異なることを実証するために、エタノール濃度を少しずつ変化させながらB-A転移を精密に測定した。転移曲線は熱融解曲線に比べて顕著な微細構造を示さなかったが、フラグメントごとに異なりしかも長さの短い合成ポリヌクレオチドに比べてbroadなことから、局所的に安定性が異なることがはじめて実証された。局所的安定性を決定する塩基配列については、10種のダブレットの分布地図や密度ヒストグラムと実測の転移曲線との比較から、GG(CC)がA型を好みAA(TT)がB型を好むとするIvanovらの主張とは矛盾しないことがわかった。また非常にAA(TT)に富む部分のB-A転移が、DNA分子の会合と関係していることが、エタノール濃度の高いところで起こるsharpでしかも転移速度の遅いヒステリシスをもつ転移の解析から示唆された。 2.多型地図と生物学的地図の比較: DNAのB型2重ラセンの安定性地図と遺伝子地図との比較より「DNAの2重ラセンは遺伝子毎に一様な安定性をとる」という"gene homostabilizing propensity"の存在を実証したが、この性質を蛋白質側の制約を受けずに実現する唯一の方法は同義語コドンを利用することである。この仮説を実証するためにDNAデータベースを用いて1277個の蛋白質コード領域について同義語コドンの使い方を調べた結果、コドンの1,2文字目のGC含量の変動を局所的に相障するように3文字目を選択することで全体のGC含量の変動をおさえ、蛋白質コード領域内の安定性の一様性を実現していることがわかった。T7ファージについてこのような3文字目の調節をなくした仮想的塩基配列をつくり安定性地図をもとめたところ、確かに一様性が消失することがわかった。蛋白質コード領域以外については、このような調節機構は見い出せなかった。
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