研究概要 |
〜1980年以来、研究代表者らが開発してきた多原子分子をマトリックスとして用いる不安定分子の分子分光学、低温化学の新しい展開を目指して、X線・γ線照射装置、レーザー光励起装置、分光・検出系の整備を行い、放射線照射で生成する活性中間体に関して次のような新しい知見を得た。 (1) イオン化に伴い、分子構造・電子状態が著しく変化する例として1,4-ジチアンなどの含硫飽和炭化水素、シクロブタン、ビシクロペンタンなどの高歪み飽和炭化水素、三員環エーテル類などがあることを見出し、それぞれについて分子軌道法などに基く解析を行い合理的な理解が得られることを示した。 (2) ジシクロペンタジエン類、シクロオクタトリエン類などの不飽和炭化水素のラジカルイオンのπ電子励起状態をレーザー光などで励起すると励起波長に依存した特徴的な光化学反応を起こすことを見出し、その反応機構について詳細な考察を行った。 (3) 脂肪族カルボニル化合物、脂環エーテル類のラジカルイオンのFSRスペクトルを測定しプロトンの超微細結合定数が分子内での結合位置に依存して顕著に変化することを見出しその半定量的解析を行った。この結果に基き炭素原子上のいわゆるベータプロトンの等方的超微細相水作用の大きさの見積り方法に関し、従来の近以的方法を根本的立場から見直し新して見積り方法の開発に着手した。 以上のような成果と並行して今後推進を予定しているレーザー誘起ケイ光、光音響分光、X線・レーザー光二重照射、高分解能因相ESR分光、軌道放射光を用いる測定・解析系の整備を行い、それぞれについて一定の進捗を見たが具体的な研究成果を得るためには今しばらく時間を要する。
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