研究概要 |
本研究は金属錯体の関与する溶液反応を、熱力学と反応速度論の両面から、電位差測定法,熱量測定,高圧ストップトフロー法,NMR法等を用いて研究し、金属錯体の溶存状態や金属錯体生成反応機構を解明することを目的としている。以下に記す通り、本年度は当初の計画通りに研究を遂行することができた。 1.酢酸中における金属(11)塩の溶存状態 酢酸コバルト(【ii】)ならびに酢酸ニッケル(【ii】)とピリジン塩基との反応において、ピリジン塩基はその窒素原子で直接金属イオンに反応する場合と、ピリジン塩基と溶媒との反応によって生じた酢酸イオンが金属イオンに配位する場合の2種類の反応が起きることがわかった。一般にpKaの小さなピリジン塩基では前者のタイプが多く、窒素原子まわりの立体障害があればむろん後者のタイプになる。 2.環状配位子の錯形成反応機構の研究 環状多座配位子の1つであるクリプタンド(221)のDMSO中におけるコンホメーション変化を超音波吸収法で測定し、(221)の溶存状態を明らかにした。さらに(221)と銅(【ii】)イオンとの錯形成反応を高圧ストップトフロー法を用いて測定し、その反応の律速段階は、【Cu^(2+)】を受け入れやすいように(221)が変形する段階であることを明らかにした。 3.NMR法による溶媒交換反応機構の研究 2000気圧までの高圧下で、【^1H】,【^(13)C】および【^(17)O】NMRスペクトルを測定することのできる高圧NMRプローブを完成した。高圧下で【^(17)O】NMRの線幅を測定することによって、マンガン(【II】)と酢酸マンガン(【II】)の酢酸溶媒交換反応に関する活性化体積を求めた。この結果から溶媒分子のかさ高さによって溶媒交換反応機構が変わることを実証した。 以上の結果は、錯形成反応の機構を統一的に解明するのに有用な成果である。
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