本研究では炭素を骨格とした新導電性材料の開発と展開について、電子論的な見地から、理論的ならびに実験的手法を総合した分子工学的アプローチを実施した。その実績の概要は以下のようである。 1.スピン固有の振電結合の解析を理論的に行い、非断熱的結合が電子対間の反撥相互作用を弱めるような吸引力をもたらすという知見を得た。この知見に基いて、超伝導電子のクーパー対との関連についても考察した。 2.種々の導電性ポリマー及び新規なポリマーについて、結晶軌道法に基く理論的解析を行い、高導電性発現に向けての分子設計の指針を与えた。特に1次元グラファイト化合物の分子設計について興味ある知見を得た。 3.軽微にドープされたポリアセチレン鎖間の導電機構として、ドーパント分子の振動を助けとするソリトン間ホッピングの速度について理論的解析を行った。その結果、ドーパント分子の振動がホッピング速度を数桁以上速めている可能性が明らかとなった。一般にポリマー鎖間の導電機構の検討は充分には行われていないが、本研究はそれについての重要な知見を与えている。 4.ポリチオフェン系導電性ポリマーについての実験的ならびに理論的研究を行い、鎖内導電キャリヤーはバイポラロンの可能性が強いこと、高温における電解重合法によって作製したポリチオフェンでは鎖間のクロスリンクが生じるため、物性が劣化していることなどの知見を得た。 5.熱処理に基くポリアセン系有機半導体を調製し、その電気物性の温度依存性やESRスペクトルについて解析した。その結果、処理温度が低温(400℃)から高温(900℃)に移る過程に伴って、3次元的非晶構造が遂次核化して行くという知見を得た。
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