研究概要 |
天然資源に乏しい我が国の将来にとって医薬の創製などの知識集約型産業の育成が重要である。現代精密合成化学はその基礎をなすもので、反応位置、立体などにつき高い選択性を持つと同時に一般性の高い反応の開発と応用が最重要課題である。我々も数年来この点に注目し、選択性、一般性が共に高い各種の反応を開発し、それらを用いて有用な天然物や生理活性化合物の合成研究を行っている。本年度の本研究では、光電子移動反応の原理を初めて応用した光脱離性アミノ保護基の開発と、14員環マクロリドのピクロノリドの全合成研究で大きた成果を上げることができた。 【I】.光脱離性アミノ保護基の開発:芳香族スルホンアミド類は電子供与性芳香族化合物共存下、含水溶液中、光照射により励起状態における電子移動反応をおこし、容易に選択的に加水分解される。この原理を応用し、分子内にジメトキシナフタレンなどを共存させたトシルクロリド誘導体を多数合成し、アミドへ変換し光反応を検討した。その結果、DMNBS基が高い効率(量子収率0.65)で脱離可能な新しいアミノ保護基となることを明かにした。 【II】.ピクロノリドの全合成:14員環ピクロマイシンは最初に発見されたマクロリド抗生物質として有名であるが、35年以上経た今日まだそのアグリコンのピクロノリドも合成されていない。我々は昨年、12員環マクロリドのメチノリド、16員環のタイロノリドの高立体選択的合成に成功した。本研究では、その時興発された新しい方法論、即ちDDQ酸化により除去可能なベンジル型水酸保護基のMPM,DMPMの活用、ベンジルとの選択的応用、低温におけるグリニア反応の高立体制御などを多数利用して、D-グルコースを出発原料として、ピクロノリドのはじめての全合成を高立体選択的に完成することができた。
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