注視点記録装置によって樹木に対する注視特性を解析した結果、落葉樹では季節的差異が著しいのに対して、常緑樹では年間を通して一定しており、しかも樹冠内部に注視点が集まる「落ちついた」視点移動を示した。また、単木ではその個体に注視点が集中するのに対して列植では全体を見わたす独自な注視特性を示した。そして、単木と群植を見た時の脳波を比較すると、単木では心の安定を示すα波の優占した脳波が出にくく、単木は群植より、より注意を引き、刺激的であることがわかった。 一方、多くの茶匠たちによって厳しく吟味されてきた茶庭の植栽においても、上述の分析結果に呼応する史実が明らかとなった。茶庭は千利休や、古田織部、小堀遠州などを経て今日に到るのであるが、そうした推移の中で、茶庭を構成する植栽もまた、茶室や茶具とともに茶匠たちの求道的な、あるいは美的な評価眼のもとで厳しく吟味されてきた。それは樹種の限定であり、姿や植栽位置の限定であった。千利休にみられたような求道的ともいえる茶では、露地の植栽はかえって茶の心を乱すものとして拒否されたように、植栽は強く注意を引く存在として認識されていた。しかし、織部や遠州になると限定的ながらもかなりの植物が露地にもちこまれる。これは茶に対する考えの変化を反映したものであり、そこにみられるある種の「弛み」は植栽をみた時の心のなごみを逆に示すものでもある。さて、露地にはじめて導入された植物は当時の一般的傾向としては常緑樹であり、かつそれらは群として植栽された。このことは、常緑樹が他に比べて奥まったイメージをもち、群植が単木に比べてより注意を引きにくい、刺激の少ない植栽であるとした、前述の視覚心理学的な分析結果と相通ずるものである。以上、本研究で得られた知見は、造園植栽の理論的骨格を形づくるひとつとなるものである。
|