研究概要 |
透過電顕の高分解能法を用いたセルロース分子鎖の直接観察によりセルロースミクロフィブリルの微細構造を明らかにすることを目的とした。 高分解能法を適用する際に問題となるセルロースミクロフィブリルの電子線損傷、試料作製技術面での試料厚さ、試料支持の問題などを十分検討した結果、緑藻類の一種であるバロニア(Valonia macrophysa K【u!¨】Tz)については、約0.4nmの分解能を得る撮影条件を見い出すことができた。この最適撮影条件を用いて、微細繊維状結晶であるセルロースの側方と護断面観察を行ない、セルロース結晶の(101)、(10【1!-】)および(002)に相当する0.60,0.54,0.39nmの格子像の撮影に成功した。 ミクロフィブリルの側方観察では、バロニアのミクロフィブリルはそれ自体が1つの結晶であり、またその大きさは、幅が20nmで長さが少なくとも50nm以上であることを明らかにした。 一方、横断面観察では、その断面形状がほぼ一辺を20nmとする正方形で、その中に1200〜1400本の分子鎖が単結晶状に配列していることを見い出した。さらに、バロニアの細胞壁の1ラメラ中では、繊維軸を互いに逆向きとする2種類のミクロフィブリルが平行に配列していることを示した。 ミクロフィブリルの横断面観察は、セルロース分子鎖を真上からみることに相当し、1本1本の分子鎖のac面投影像が観察されると期待された。本研究で得た横断面の格子像の格子編の交点には、いわば分子鎖の切り口が写っていると考えられる。個々の分子鎖の形などについての議論は今のところできないにせよ、現在の技術レベルからみて到達可能なかぎりの「セルロース分子鎖の直接観察」がなされたと考えている。
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