研究概要 |
前年度の研究結果をふまえて以下の研究を行った。 1. 卵巣のう腫およびそれに類似する卵巣疾患の診断と治療 (1) 臨床所見による総合診断と内分泌面からの検討 一般酪農家の乳牛106頭から得た生殖器臨床所見および卵巣ステロイドホルモンデータを、数量化理論【III】類の方法を応用して分析した。その結果、子宮などの副生殖器所見から、卵胞のう腫のうち、卵胞液内エストロジェン(OE),血漿内エストロジェン(PE)濃度が高い二つのタイプは診断可能、それ以外はやや不確実であること、また、これらと内分泌的性状の異る黄体のう腫、のう腫様黄体および巨大卵胞・黄体共在の鑑別も可能であることが明らかとなった。 (2) 卵胞のう腫のh・CG剤投与に対する反応 上記に基いて確実に卵胞のう腫と診断した23頭の乳牛に対するh・CG剤10,000inの投与試験を行い、臨床および内分泌学的反応を調べた。その結果、高単位h・CG剤に対する反応には、四つのタイプがみられ、今後の卵胞のう腫の治療に関して内分泌学的裏付けを得ることができた。 2. 黄体形成不全タイプの不妊症牛の臨床内分泌的特性 長期不妊症牛に最も多い黄体形成不全タイプの537頭から得られたPE、血漿プロジェステロン濃度(PP)および臨床所見データについて、数量化理論【I】類の方法を用いて分析し、臨床所見とPE,PPとの関係を調べた。その結果、PPは生殖器の臨床所見に強く反映され、これら臨床所見から高い精度でPPが推定できること、黄体期の正常な内分泌状態は、黄体の十分な形成による高レベルのPPの維持とPEの一定の中レベル維持にあることが明らかとなった。一方、PEはPPの高い状態では臨応所見に反映されないため、PPが1ng/ml以下で推定可能であることも明らかとなった。今後は、これらの結果から、排卵後の黄体形成の促進のための根拠のあるホルモン剤投与法の確立が必要と考えられた。
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