ニホンザルの両側大脳半球の各皮質領野の表面と深部(2.0-3.0mm)に記録用電極(先端以外は絶縁した銀針)を設置し、頭蓋骨に固定封入して、数ヶ月以上にわたり大脳皮質のフィールド電位を記録分析した。約0.5秒持続する光刺激を不規則な時間間隔でサルに呈示し、光刺激持続中に手でレバー上げ運動を行うよう訓練し、運動学習中の大脳皮質運動関連電位の発現と変化を記録した。また運動習熟後の大脳皮質各領野を局所冷却法で機能不全に陥し入れ、その際の運動と大脳皮質フィールド電位の変化を追跡分析した。さらに、小脳皮質玉にも慢性記録電極を設置することを試みた。現在までに得られた結果は次のように要約される。1. 両側運動前野(6野背外側部)を20-30℃に冷却して、その部の電気活動が著明に低下した際に、習得された視覚始動性手関節運動の光刺激-運動統御が解離し、サルは光刺激と殆んど無関係にレバー上げ運動を行うようになる、一側運動前野冷却の場合も同様の作用が出現するが程度が弱い。前年度報告した運動野冷却の場合のような不全麻痺などは認められず、その他、固縮、異常姿勢などもみられなかった。また、他の皮質領野冷却効果との著明な違いとして、運動前野を反復冷却すると、その冷却効果が低下することがみられた。この点について種々検討の結果、冷却そのものの効率低下などによるものでなく、運動前野に特異的な現象であり、運動前野の機能不全が短時間の中に他の中枢神経部位で代償され、その代償作用が残存し蓄積されることが示唆された。2. 前頭前野の中、弓状溝の吻側部を冷却すると、視覚始動性運動の反応時間が延長し、不規則になることが判明した。大脳小脳連関を駆動する働きの一部をこの領野が受持っていると考えられる。3. 小脳皮質内に特殊な慢性記録用電極を設置し、上記運動に関連した電位記録を試みつつあり、ある程度成功する見通しがついた。
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