研究概要 |
「随意運動」研究のモデルとしてニホンザルを用い、光刺激に応じて手でレバー上げを行う反応時間運動を取り上げて、その際の大脳皮質および小脳皮質の活動を慢性埋め込み電極により長期間記録、分析した。さらに大脳皮質各領野の局所的冷却実験を行い、各皮質領野の随意運動発現に対する寄与とその障害時の病態を検索した。研究成果は以下のように要約される。 1.視覚始動性手関節反応時間運動に関連して著明な活動を示す大脳皮質部位は、前頭連合野(特に弓伏溝野腹側部)運動前野,運動野上肢領野,体性感覚野上肢領野,線伏前野,線状野などであった。また、このような反応時間運動を学習する過程の分析により、視覚刺激と運動を連合する「認知学習」には、前頭連合野、運動前野などの活動増大が密接な関係をもち、一方、反応時間を短縮し一定値に近づける「熟練学習」には、大脳-小脳連関を動員して運動野を賦活することが必須であると結論された。 2.小脳皮質からの慢性記録により、上記の大脳-小脳連関の動員は、前頭連合野と運動前野から橋核を介する苔状線維投射により小脳半球部(新小脳)が駆動されることが判明した。 3.運動野上肢領野(手と反対側)を局所冷却すると、反応時間が延長し、筋力は低下するが完全麻痺にはならない。この際、体性感覚野上肢領野が代償性に運動機能を発揮し、運動野の機能不全を補っていることが明らかとなった。 4.運動前野(6野の背外側で補足運動野を含まない)の局所冷却により、視覚刺激と運動の連合が解離し、光刺激と殆んど無関係に運動することが観察され、運動前野が学習した視覚運動連合を発現するニューロン回路網の要衝であることを示唆する。 5.前頭連合野の弓伏溝前野の冷却は、反応時間を延長させる効果を示し、大脳小脳連関の起始部の一つであることを支持する。前頭連合野の主溝後部背側壁に、色光弁別に密接な関係を有する部位が発見された。
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