研究概要 |
肝細胞癌の発生にB型肝炎ウイルス(HBV)が密接に関与していると考えられている。そのため血清HBs抗原陽性の肝細胞癌患者の肝癌組織より樹立した培養肝癌細胞株HCC-Mを対象として、HBV DNAの組み込み及びoncogeneの検出、クローン化によりHBVの癌化に果たす役割りの解明を目的とした。HCC-M細胞はHBS抗原を表出していないにもかかわらず、HBV DNAをprobeとしたSouthern blot hybridization法の成績から、HBV DNAの組み込みが認められた。oncogeneの検出法として、NIH/3T3細胞を受容体としたDNA transfection法を用い、形質転換が認められたtransformant細胞のDNAを解析した。HCC-M細胞のDNAのNIH/3T3細胞へのtransfectionにより0.106個/μgの効率でtransformant細胞を形成した。これはcontrolとして用いたNIH/3T3細胞のDNAのfocus形成能0.067個/μgに比し高率であった。この結果得られたtransformant細胞DNAを回収し、さらにDNA transfectionを行ない、第二代transformant細胞,第三代transformant細胞の作成に成功した。第一代transformant細胞のfocus形成能は0.13〜0.20個/μgであった。transformant細胞DNAのSouthern blot hybridization法による解析により、第一代,第二代目のtransformant細胞までHBV DNAを保有しており、transforming geneとHBV DNAが緊密に関連していることが示唆された。さらに第二代transformant細胞の一つよりHBV DNAと、正常NIH/3T3細胞にはみられないV-K-ras geneとの両者に相同部位を有する3.5kbのDNA断片がクローニングされた。 第三代transformant細胞の一つは、HBV DNAを保有していなかったが、NIH/3T3細胞にはみられないV-K-ras geneを含むDNA断片を保有していた。HBV DNAの果たした役割りは明らかではないが、第二代目までのDNAの再配列に関わり、oncogeneの活性化を促がした可能性が示唆された。
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