研究概要 |
冠動脈硬化の発生および局在化には、血流の流れ構造が関与すると考えられるが、基礎的にも充分な解析がなされておらず、臨床的計測法もなかった。本研究では、臨床的計測法として経食道超音波ドプラー法の有用性を明らかにするとともに、動物実験においてマルチゲート型高周波ドプラー血流計を用いて、冠動脈前下行枝(LAD)、鎖骨下動脈(SA)、胸部下行大動脈(DA)の血管壁せん断応力の分布を求め、これと血管内皮細胞骨格を構成するマイクロフィラメント束(M束)の量的関係を検討することから、流れ構造が血管構築に及ぼす影響を明らかにせんとした。 1)経食道超音波ドプラー法により臨床例の冠動脈および冠静脈洞血流を計測できた。その血流速スペクトルから層流的流れであることが示された。 2)イヌLADの血流速分布は放物線状でよく発達した層流であったが、そのピークは心外膜側へskewしており壁せん断応力は心筋付着部側に比べ心膜側で有意に大であった。これに対し、SA,DAの血流速分布は台形状でskewを認めず、壁せん断応力はLADに比べいずれも高値を示した。 3)血管内皮M束は血流方向に平行に配列し基底膜側に多く存在した。M束の細胞内に占める割合は、SA,DAに比べLADで高く壁せん断応力の低いLADで却って内皮細胞のM束が発達していた。 以上の結果から、異なる動脈間では血管内皮細胞のマイクロフィラメント量は必ずしも壁せん断応力のみで規定されるものではないことが示唆された。また、LADでは他の血管に比べマイクロフィラメント束がよく発達していたが、これは冠動脈内皮細胞骨格の特異性を示唆する所見と考えられた。
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