本研究の目的は、長時間麻酔をかけていると麻酔薬の作用が次第に減弱してくる現象(耐性)を解明しようとするものである。昨年度までは麻酔薬に対する耐性発現の時間的経過に関する神経生理学検討を行った。今年度よりラットを用いて、麻酔薬笑気吸入が脳内カテコラミン含有量の時間的変動へ及ぼす作用について検討を開始した。しかし生化学的検討を行なうに当って種々の問題があることが判明した。まず、空気吸入時を対照群として脳内カテコラミンの測定を行なった。脳内カテコラミンは死後も脳内酵素の働きによって減少するため、マイクロウェーヴを使用しラットの死亡と同時に脳内酵素の不活性化を図った。また、日内変動や飼育温度の影響が考えられるため、本年度特定の飼育ボックスを作成した。カテコラミンの測定は液体クロマトグラフにて行なうが、本装置の安定がなかなか得られず、データ結果に信頼性が乏しいため、その調整に多くの時間を費やしてしまった。現在は、内部標準物質を用いて計算すると70%以上の回収率が得られることが判明した。したがって、現在は笑気の脳内カテコラミン含有量へ及ぼす作用を発表するまでの結果は得られていない。耐性に関する神経生理学的研究では、扁桃核燃え上がりネコにおける笑気の抗痙攣作用の時間的変動を観察した。その結果、笑気の抗痙攣作用はネコの本痙攣モデルに対しては1時間以内が強く、以後減弱していくことが判明し、ラットにおけるビククリン痙攣とは様相が異なっていた。したがって、動物の種および中枢神経作用毎に急性耐性形成の時間的経過も異なっている。本年度より開始した脳内化学物質含有量の笑気による時間的変動を次年度も継続することにより、笑気の中枢神経作用のいずれの作用が脳内カテコラミンの変動と相関しているかを推測することができると思われる。
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