研究課題
一般研究(A)
胎児生理に関する研究の最大の難点は、母体子宮内に存在する胎児にいかに到達するかという点にある。近年は、ヒツジやヤギを用いて、子宮内胎仔に血管カテーテルや種々の電極等を装着し、invivoの状態で胎仔生理を研究する方法が開発され、いわゆる「胎児学」は長足の進歩を遂げた。しかし、狭い子宮内での操作のため、研究方法には限界があった。そこで、本研究では、できるだけ生理的な状況下で胎仔と母体子宮外で保育し、胎仔に容易にアプローチできる装置を開発し、胎仔生理に関する研究の一層の発展を企図した。昭和59年度から研究を開始し、初年度は子宮外胎仔保育装置の試作とそれに伴う予備実験を重ね、昭和60年度からの2年間に本格的な研究を行った。同様の研究は海外でも行われており、いくつかの報告があるが、子宮外胎仔保育時間は最長2日間であった。本研究では、研究の進展に伴って、体外循環回路に人工肺のみならず透析器も組み込み、回路の改良を3回に旦って行い最終的には胎仔生存期間を7〜10日に延長することができた。同時に、種々のモニター記録から見て、約7日間は胎仔は生理的な状態を保っていると判断され、この間における胎仔生理・病理の研究は充分可能であり、画期的な胎仔実験モデルとなりうると考える。本装置を用いては、胎仔脳波の分析、胎仔行動の観察、胎仔低酸素症の病態解明、胎仔水代謝の研究、胎仔糖代謝の研究などが行われ、多くの成績が得られた。特に、胎令に伴う中枢神経系の発達は、脳波の分析により、胎令120日頃に急速に進展し、脳波上に一定のバイオリズムが発現してくるという極めて興味深い事実が判明した。今後も本装置を用いて、胎児生理・病理の研究は一段と進歩することが可能となり、一方では未熟児保育を目的とした人工子宮としても期待される。
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