鼓膜穿孔を伴わず中耳腔に粘稠な液の貯留をみる滲出性中耳炎は、とくに4歳から7歳位の小児に多発し治療に抗して遷延化すると癒着性中耳炎や真珠腫性中耳炎に移行し中耳伝音系を破壊する。ちょうど言語習得の最も盛んな時期に本疾患に罹患すると難聴のために言語発達が遅れ性格形成にまで影響が及ぶと警告されている。 本疾患の成因を究明し治療法の確立が急がれているが未だ不十分といわざるを得ない。本研究では無菌的中耳炎の動物モデルを作成し本症成立機転の解明に努力した。 白色モルモット73匹とチンチラ41匹計114匹を用いた。実験方法はhorsecadish peroxidase(Sigma typeW)(HRPと略す)をFreund'sComplete adjuvantと混合しエマルジョン化したものを動物の皮内に分注し感作した。実験系は1)非感作動物中耳腔にin vitroで作成したHRPimmune complex(ICと略す)を注入、2)感作動物の中耳に抗原HRPを注入、3)非感作動物にHRPを注入(コントロール)の3系統を行った。 1)ではIC注入後6時間位から局所反応を生じ12時間から24時間位経過すると反応は増強し粘膜は浮腫状となり血管拡張白血球浸潤が著しくなった。注入5日目以内では100%の動物に滲出液を認めたが7日目80%、10日以上経過すると50%になった。2)では基底板からその直下の毛細血管壁にICの沈着がありそこに好中球の集積貪食組織破壊などいわゆるアルサス型組織反応がみられた。中耳貯留液中には壊死細胞や貪食により活性化した好中球・マクロファージなど多数の細胞を認めた。コントロール動物とは明かに組織反応の強さと持続時間に差を認めICによる局所炎症反応が急性期から慢性期にかけて持続的に生じていることが確認された。この様な炎症の修復に重要な鍵をにぎる粘膜の分泌細胞化の阻止と粘液繊毛輸送機能の改善こそが本疾患の治療に不可欠の要因であることが示唆された。
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