本研究の目的は内耳蝸牛の各部位が聴覚受容器としてどのような役割をはたしているか知ることであり、感音難聴のモデル動物を試作するものである。 内耳の部分破壊には米国コヒレント社製のアルゴンレーザー装置を用いた。 実験動物としてはモルモットを用いた。 中耳骨胞を開放して蝸牛を露出させ、蝸牛骨壁に、または蝸牛窓膜より内部にアルゴンレーザーを照射した。 動物は実験直後、あるいは2日後に生体固定しセロイジン標間を作製して観察した。 照射したアルゴンレーザーの照射時間、電力は0.5秒、1ワットであった。 蝸牛骨壁に照射した時、骨壁の厚さにより1回の照射では焼灼される場合とされない場合があり、したがって内部に対する影響モ一定しない。 蝸牛窓膜より照射した場合は、蝸牛窓膜には黒化、穿孔などを生じないにも拘らず内部に病変をつくることが判明した。 すなわち、血管条の空胞化、前庭膜の破綻、らせん器の変性、骨らせん板の骨折、蓋膜の変形などが生じた。 これらの変化は蝸牛窓膜より5回のレーザー照射で生じた変化で、今後、照射方向、回数、時間、電力を調節することにより一定の病変を作ることができるものと信じている。この結果は蝸牛内リンパシャント術をアルゴンレーザーを用いて行うことができることを示しており、内耳疾患の治療に一つの道がひらけたと考えられる。 電気生理学的研究は今回は行えなかったが、近く行える見通しがたった。
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