平滑筋収縮・弛緩状態を出来るだけ生体内中における状態に近い姿で固定したいという目的は著者らが発見したK拘縮長時間下での固定は異常な細胞像を呈する(中心部の空洞化)発表の確認の為にも是非共必要なものであった。この様な目的でスタートした本研究は意外な発展をしてしまった。すなわち同様な現象は特に血管平滑筋で著しいことが、普通固定標本、急速凍結標本で確認された。特にモルモット血管平滑筋の急速凍結置換法の適用は全壁(60μm以上)の水晶無し固定成功という驚くべき結果(従来本法のように液体窒素を用いた方法では7〜8μmが固定可能)が得られたが、以後この追試が成功せず、急速凍結固定は停帯している。 しかし、ここで得た現象は血管平滑筋には長期収縮時に中心部空洞化を生じることから、【Ca^(2+)】存在時にアクチンを切断する因子の探索にとりかかった。この因子の精製はDNAseIアフィニティカラムを用いて行った。さらにHPLCゲル瀘過を用いて完成した。精製された蛋白質は84Kダルトンの蛋白質でアクチンを【Ca^(2+)】存在下に切断した。この効果はトロポミオシンの存在下でも現われた。黄変米毒の主成分クロルペプタイドは84K蛋白質の作用に拮抗した。84K蛋白質は生体内に存在する自然のアクチンフィラメント出現阻止因子であり、黄変米毒の効果は生体内にアクチンフィラメントを出現させることにより細胞内構築変化を惹きおこすことが原因かもしれない。アクチンの切断と再生について急速凍結で分子形態の変化が追求されつつある。 このプロジェクトによって平滑筋、特に血管平滑筋の収縮時の異常構造の問題は解決した。さらに薬理学・毒物学へのひとつの未解決であった黄変米毒効果への足がかりもつきはじめた。急速凍結固定法の完全解決は残されたが、これはひきつづき実験していきたい。
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