61年度は、59・60年度に秋田県北東部の北鹿地域の餌釣黒鉱鉱床地区での地質調査、坑外試錐岩芯と坑内調査によって採取した多数の岩石試料をX線回折装置を用いて鉱物の同定を行った。また前年度で把握した変質帯の概要を、さらに詳細に区分するための精密サンプリングならびに地区東部に数多く賦存する女川期の鉱脈鉱床周辺岩石の変質状況のチェック調査も行った。 餌釣地区における地表地質図、黒鉱鉱床と鋼脈鉱床を通る断面図として坑内の地質鉱床図と、これら室内実験で得られた資料を対応させた結果、西黒沢期の黒鉱鉱床付近では、鉱床をとり巻いて中心部にカリ長石と絹雲母からなる中性からアルカリ性の変質帯が分布する。一方、地区北部ではこの変質帯をロート状に切る形態をもって、女川期の鉱脈鉱床を中心にパイロフィライトを主としその外側が緑泥石、絹雲母からなる酸性から中性の変質帯が分布する。そして黒鉱鉱化作用に伴う変質帯の形状より、西黒沢期の黒鉱鉱床形成後にも余塵的な熱水の供給が継続していたこと、鉱脈鉱床の形成に関与した熱水は、地表近くで下降した地表水と酸性条件下で混合したと推察された。 また、黒鉱鉱床付近にはカリ長石と絹雲母が、鉱脈鉱床付近には緑泥石が卓越することから、鉱化時期に対応して熱水中のKとMgの活動度には差があったことが示唆される。 さらには、餌釣鉱山地区で得られた知見をもとに、深沢鉱床及び小坂上向鉱床の両黒鉱鉱床における変質帯の比較・検討を行った結果、形成時期と形成の場が類似する黒鉱鉱床においても変質鉱物の組み合せには地域性がある。このことから今後とも詳細な火山活動の地域性を考慮した研究を継続する計画である。
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