高分子溶液から固体表面に高分子が吸着する現象は高分子セグメントと表面との相互作用力の大きさによって支配される。したがって、異なる分子量間および異なる化学種間の吸着挙動に競争が生じ、表面に吸着した吸着高分子の組成は溶液中とは異なる。さらにその原理に基づいて、既に吸着している高分子をより吸着力の強い高分子が置き換えることが予想される。本研究ではこれらの競争および置き換え吸着現象を種々の高分子の組合せを用いて集中的に行なった。 1.分子量の異なるポリスチレン(PS)の白金金板への吸着を【○!H】条件下でエリプソメトリーによって測定した。平衡吸着層厚さの測定結果から、低分子量物は高分子量物によって置き換えられるが、良溶媒系とは異なって、低分子量物のわずかな残存が認められる。 2.PSとポリエチレンオキシド(PEO)およびPSとポリメチルメタクリレート(PMMA)のシリカ表面への競争および置き換え吸着を良溶媒中にて測定したところ、PSはPEOおよびPMMAによって完全に置き換えられ、PEOとPMMAはシリカ表面にそれぞれ優先吸着することが明らかになった。また、PEOおよびPMMAが固体表面を十分に被覆しきれない場合に限り、表面にPS吸着鎖が共存しているが、PEOとPMMAの濃度が増加すると、それらの平衡平坦域吸着量に到達する以前にPSは完全に脱着されている。 3.高分子電解質であるポリ-4-ビニル、N、n、ブチルピリジニウムブロミド(PVP)とPEOとの水溶液中の競争および置き換え吸着では、シリカ表面からPEOによりPVPが完全に脱着されることが判明した。以上の結果から、吸着力の強い化学種は優先吸着したり、先に吸着したより吸着力の低い化学種を完全に脱着できる。
|